直前レポート『修羅場の車窓から』#16


第16回「ヘルタースケルター」

ヘルタースケルターを「しっちゃかめっちゃか」と訳したのは岡崎京子だと思っていたんですが、ビートルズの元盤の時点からそう訳されていたらしい……などと、トリビアに逃げる間もないくらい、しっちゃかめっちゃかです。海外イベントへの最終確認はまだまだ続いていますし、ステージ関連の演出も日々動いています。

前回のコラムで前フリしておりましたが、月曜の午後にOTAKU EXPOのシンポジウム『俺たちのコミケがそんなに悪いイベントなわけがない~「公」の中の人がコミケとファンイベントを語る~』を発表しました。熊谷俊人千葉市長を初めとする豪華パネラーの顔ぶれはもちろん、そのプロフィールも必見です。

熊谷市長のプロフィールに「コミケで売り子した経験」と書いてあるのを見て、本当の意味で「マンガ・アニメ等に理解のある」世代が政治の中心に登場しつつあると思いました。ともすれば、参加者自身がコミケットに参加していることを恥じらったり隠したりすることも多い中、こうして堂々とプロフィールに書ける方が、政令指定都市の市長を務めているのは心強いですね。

今回のスペシャルが「OTAKU SUMMIT 2015」という、ややコミケットの身の丈を超えていなくもない(笑)テーマを掲げて出港したのも、コミケットという「場」を未来につなげるために海外、そして「公」との関係を強めていこうという思いがあります。

記憶に新しい人も多いと思いますが、2012年のコミケット83では脅迫状が届き、会場・警察の強い要請に基づき、一部サークルに参加を見合わせて頂く結果となりました。これを受け、コミケットは共同代表を中心に「場の継続に向けた意志」を確認し、コミケット84発行の「コミケットマニュアル」で理念を書き改めました。ここでは、同人誌即売会同士の協力関係を強めること、省庁・アカデミアと連携を深めることなどを指針として定め、公式Webサイトにも掲載しました(英語版もあります)。こうした流れを受けてコミケット85で発表されたのが、今回のテーマです。

「いざ」というときに一緒に戦える仲間を増やす――この方針は昔からあまり変わっていません。同人誌即売会であるコミケットに企業ブースが設置されたのも、著作権者から理解を得ることが一つの目的でした。新たにコミケットに来た人(海外イベント団体や省庁・自治体)に仲間になってもらうには、「場」のパワーをしっかりと感じてもらい、楽しんでもらいたい――個人的にスペシャルに込めている想いはその一点です。まずは参加者のみなさんに「同人誌即売会」として、より正しくは(企業ブースやコスプレも含む)「コミケット」として、圧倒的に楽しんでもらう。そんな場を目指して、しっちゃかめっちゃかですが船の舵を取っています。

今回、スペシャルの一環として2日目(29日)「くろケット」を開催することにしたのは、同ジャンルに対する「みそぎ」でもありますが、スペシャルという場をより多くの参加者が楽しめるものにするためでした。詳細はくろケットのサイトに譲りますが、『黒バス』愛にあふれたメンバーが、プチオンリー、チラシラリー、アンソロジー発行など、様々な企画を準備しておりますので、是非ともご覧下さい。(ホール内で相互通行が可能です)

当日が迫り、改めて痛感するのは、スタッフにとってスペシャルの準備は「普段使わない筋肉を使う」作業だということです。準備会はコミケットという巨大な場を、安定的に開催することに特化した、アスリートのように「無駄な筋肉が付いていない」組織です。

スペシャルは場を用意するだけでなく、ステージや企画展示などを自分たちで企画し、中身を創らないといけない。スペシャルでは普段の「内輪」を超え、違う担当の人や外部の専門家と共同作業しないといけない。スペシャルにマニュアルやタスクリストはなく、ゲームの説明書に載っているワールドマップ程度の全体像を元に、自分でマッピングしていかないといけない。どれも普段使っていない筋肉を使うコトだから、長くやっている人ほど負荷がかかり、筋肉痛になることもありますが、そこには新しい筋肉がつきます。

我々は20年間ビッグサイトに「安住」していたため、外部環境の変化に対する「筋肉」は残念ながら弱くなっています。表現規制の問題やTPP交渉などの社会情勢、そして2020年東京オリンピック・パラリンピック開催。こうした筋力強化も、「いざ」というときに備えた、大きな計画の一部なのかもしれません。

(事務局長)