鈴木心インタビューPart3


鈴木心インタビューPart3 (Part1Part2Part4)

『鈴木心はいかにコミケと出会い、コミニュケーションを図っていったのか』

Part1の『バーチャファイター』とPart2のカードダスから写真のヒントを大いに得ているという鈴木さん。これだけでもコミケ適性はばっちりだと思いますが、そんな鈴木さんがなぜ10年来コミケ通うのか、改めてストレートにうかがいました。

−− 鈴木さんは何故コミケに来るようになったのでしょうか?

鈴木 うーん、最初は「怖いもの見たさ」みたいなのがありましたね。

−− 怖いですかね、やっぱり(苦笑)。

鈴木 僕、音楽やりたくて大学に入ったので、実は写真に興味なかったんです。それでも、女の子を撮るのだったらやる気出るのでは? と、友達と一緒に毎週原宿に行って、女の子に声かけてその場で写真撮らせてもらっていました。そうすると今度は、その撮った写真を見たくなる。帰ってきて自分で現像してコンタクトやってキレイにプリントして……。「写ってるよ、あの子が!」ということで、写真の技術的な勉強を実習でやる気がでる(笑)。かわいく写ってたり、かわいくなく写っていたりっていうのは自分のせい。それで頑張ろうっていう気持ちになっていったんです。そうこうしているうちに、原宿だけやっててもなあ、ってことで、青春18きっぷで野宿しながら日本全国一周したんです。で、全国コンプリートしたらしたで、もうやることないじゃんみたいな感じになりまして。これもカードダスの影響ですかね。コンプって……。

−− すごいバイタリティですね(笑)。

鈴木 その次はゲームショーかな。東京にいるんだからゲームショー行けるじゃん! って思い立って、そこで初めてコスプレ文化っていうのに出会いました。コスプレを目当てで行ったんじゃなくて、僕はセガの新しいゲームを見たかったんです。ちょうど『バーチャファイター4』辺りのタイミングです。それで、ゲームショーに行ったときにコスプレに出会って、すげーかわいい子とか多いじゃん、と思ったんです。

−− コンパニオンですよね?

鈴木 コスプレのブースがあったんですよ。確かにコンパニオンはコンパニオンという「お仕事」ですけど。コスプレって「創作」じゃないですか。それで、コスプレもっと見てみたい! って思って、ゲームショーの次はコミケになったんです。

−− ストレートですね(笑)。

鈴木 もしかするとその間かその後に、コスプレの撮影会みたいなのにも行ったと思います。まあ、それは置いておいて、コスプレはなんかの写真作品化できるんじゃないかと思って、コミケに行き始めたんです。

でも、コスプレ広場に一日中いる忍耐も体力もないので、企業ブースとかサークルスペースを漂流しているうちに、本体の「マーケット」の部分と触れ合って……。創作するということを自発的にやってる人が、作るだけじゃなくてみんなに見てもらいたいと思って、売ろうとして来るわけじゃないですか、それにすごく活気を感じた。

−− コミケのメインの部分ですね。

鈴木 買いに来る人も出す人も、こんなに活気があるっていうか、こんなに人がいるんだというのにびっくりしました。こんなことが世界中で起きているわけないと。以来、一般参賀(*1)とコミケは毎年必ず行っています。自分をリフレッシュするというか、あの、秋葉原の話(*2)をカタログで書いてくれましたけど、たまに秋葉原に行くと、これまで語ってきたゲームの話とか、街を歩くだけで「こういうのあったな」とか「今こういう風になってんだ」とか、自分が取り組んでいることとは違うチャンネルの創作に関することが、五感から洪水のように入ってきて、中和されるというか初心に還るんです。それと似たような感覚がコミケに行くとあるんで、必ず行っていました。

−− 発想の切り替えになるんですね。

鈴木 なりますし、どうにかしてこの中に自分も入りたいって思いました。でも、これだけ好きなのに相容れない存在なんですよね。なんでかっていうと、それは逆に写真があったからだと思うんです。写真を撮らないと僕は現象を伝えられないのに、基本コミケって「写真撮っちゃダメ」って言うじゃないですか。そこでずーっと10年ぐらいコンフリクトしてきたのが、僕とコミケです。僕は写真があることによってそれを知るし、そこと繋がれる。だけど、コミケ側はそれをとことん拒絶するっていうか……。

−− ちょっと撮影マナーの悪い方が少なからずいるとか、あるいは、撮られたくないっていう方も結構いらっしゃって、トラブルになることも多かったんです。一時期は準備会の方も余裕がなかったというのもあって、現場で一律止めちゃうみたいなことも一部ではありました。で、一昨年前ぐらいですか、鈴木さんをうちのスタッフが捕まえて……。

鈴木 その前も、僕と準備会のスタッフと大喧嘩になるというのは。お盆と暮れの風物詩みたいなものでしたからね。

−− 先ほどもお話しした通り、人が沢山いてトラブルを嫌うところもあるので、写真撮ってる人、特に目立つ人は止めちゃったりしていました。ただ、何回もこんな人が来ているっていう話を現場のスタッフから聞いてはいたので、あの時は話のわかるスタッフを現場に張り付かせて、「来たら話をしておいて」という話を実はしていたんです。それで、鈴木さんを捕まえて、いろいろじっくりお話を伺いまして。うちのスタッフは鈴木さんがどういうカメラマンか知らないから、「だったら、うちのスタッフになっちゃえば?(そうすればいくらでも撮れるよ)」みたいな話を鈴木さんにしたらしいんです(笑)。その時に名刺をいただいて僕のところに持ってきてもらったところで、あら、鈴木心さんと言えば売れっ子のプロカメラマンで賞もとってるエライ人じゃないですか、っていう話になりまして。

鈴木 あはは。

−− で、その後にコミケットの広報から鈴木さんに連絡を差し上げたんですね。取材という形であれば、ご相談に乗らせていただきますということで。

鈴木 それも、すごいタイミングが良かったなと思います。あれだけ広いコミケで、何を撮ってどこを見せるかっていうのは、写真で的確かどうかも最初はわかっていなかったんです。でも、とりあえず行ってみて撮ってみてを、10年以上ずーっとトライ&エラーしていました。そして、やっぱり外側からだと限界があると思いつつも、撮らないわけにはいかないという感じだったんです。

−− なるほど。

鈴木 そうこうしているうちに、自分の名前もそれなりに写真のなかで知られるようになってきまして……。この仕事をやっているこの人間がこういう興味をもっている、だから一緒になんかできるんじゃないか? と思ってもらえる機会もあるかなと思い始めていた。それで初めて、「コミケを撮る」って段階に入れる。どういうことかというと、一般的に「ダメ」って言われているところからしか良いものは撮れないというか……。

−− 運営する側とすれば「はい」とは言いにくいですが、おっしゃる意味はわかります。

鈴木 いい風景って人がいかないところにありますから、そこを探すのが写真家の仕事みたいなものです。段々キャリアを積んでくると、内部に入れるような機会もできたりするようになってくるわけです。そのことによって得られる視点もあります。でも、そこに偽りはないんです。嘘ついて中に入っていい写真撮って美味しい思いをしようというんじゃなくて。僕の場合、基本的に写真を役立ててほしいと思っています。役立つものを撮れているっていうのが、許可を取れている僕だと思うので。そこで、写真を通じたコミュニケーションっていうのが、成立すればいいだけだと思うんです。

−− まさにコミケでのコミュニケーションに通じるお話ですね。

鈴木 で、そのきっかけをいただけたことが、こういう色々な物事を前進させることになりました。ちょうど、そういう頭になっていた時だったので。その前だったらもっとがむしゃらにやって、トラブっていたかもしれないですけど、ほんと良い時期にこういう形になったのが嬉しかったです。ありがたい。掬っていただいたというか。

−− いえいえ。こちらこそありがたいことです。コミケに以前からいらしていて、あれだけの人がマンガを描いたり、本作って売ったり買ったりしているところで、 鈴木さんは写真というものを持っていた。でも、それを直接販売するというストレートな形式ではなかったけど、この前の冬のコミケット87では、例えば写真館という形で参加できるようになってきた。

鈴木 うん。例えばテレビゲームと同じで、結局なんか複雑な文脈のものを面白いと思って出しても、ユーザーがそこのレベルになかったら、そのゲームって受け入れられないじゃないですか。で、ユーザーの立場に立ってプレゼンテーションすることで、お互いが融和できるっていうことです。あの群衆を撮っている写真は分かりやすいんですけど、コミケ全てを写真で語ろうとすると、すごく沢山の写真が必要になってしまいます。今回の写真館では、あなたが被写体になって、僕らの技術とかセンスっていうものを体験してもらえれば、明らかにそんじょそこらのものとは違うってものは分かってもらえる。それがコミケに参加する人たちと同じように、なにかしらゲームやアニメの経験を背景に持つ写真家の仕事なんだよっていうことが伝われば、今はそれでいいんですよね。これはまだほんの始まりにしか過ぎないので。

−− 確かに、昨冬の鈴木心写真館プレ企画に参加された方は、プリントを見てその「明らかな違い」にみなさん驚かれていました。

鈴木 コミケにあるべき写真の姿っていうのは、写真館か、それともほんとに自分の好きな写真を撮るかの二つですが、二つあるからこそ両方がちゃんと成り立つ。こっちは参加者と準備会のため、こっちは僕と準備会のためっていう。その棲み分けこそ初めて写真が機能する構造だということに、コミケっていう現象と自分を分析して生み出せて成立できたっていうのは、あるべき姿だと思っています。

−− どっちも写真ですけど、そこに違うものが二つあるということなんですね。

鈴木 ええ。そこに内在する目的如何ですね。

−− これまで、C85、C86で群衆を撮って、先日のC87で写真館をやったわけですが、写真館やってみてどうでしたか?

3-1 3-2

 

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3-4 3-6

鈴木 参加者と触れ合えたっていうのが嬉しかったっていうか。それが10年前からずっとしたかったことですから。

−− まさに、コミケの醍醐味ですものね。

鈴木 でも、撮影会とかっていう距離じゃなくて、自分が無理矢理入っていくんじゃなくて、向こうが写真に入ってきてくれるっていうのが初めてでした。それが単純に嬉しかったです。写真が機能しているなと。

−− それは鈴木さんにとって、あそこでサークルをやっているような感じなんですね。

鈴木 そうそう。普段はこういうこと(コマーシャルフォトグラファー)をやっているけど、決してみなさんと違う人種ではないと思っているんです。

−− あはは。

鈴木 そのー、俺もそっち側なんだけど〜って……。

−− あはははは(果てしなく笑)。

鈴木 写真館に来てくれた方で牛の骸骨みたいなのをかぶっている人がいて、「怖い、怖いですねー、みたいなことを言われたんだけど、きっと鈴木さんはこのキャラクターを知らないから怖いって言ったんだろうけど、なんだかんだで撮ってもらえてよかった」っていう感じでツイッターに書いていた。これって、書きながら結局ハッピーエンドの話になっている。それもすごくお互いがきちんと最終的に噛み合えているという感じがありました。知らない=イヤだっていうのではなくて、知らないものでも理解しようとして臨んでいる、知らない人だけどちゃんと肯定してくれている、というのが伝わっているなと思いました。つまり、それは具体的な個々のキャラクターのことじゃなくて、コミケの参加者のことを理解したいっていう気持ちが伝わっているんじゃないかなと思ったので、この姿もありだなと。全部のキャラクターを知ってる必要はない。

−− さすがにどんなコスプレでも知っているっていうのは無理ですよね。

鈴木 一番重要なのは気持ちの問題。向こうもちょっとよく撮られたい、こっちもいつもよりよく撮ってあげたい、っていう気持ちがきちんと行き交っていれば、それで十分なんだなと思ったので、ちょっと気が楽になりました。まあ、全部終わってからの感想なんですけど。

−− 鈴木さんの写真でコミュニケーションが成り立っていた、というのが収穫でしたね。

<今回の感想>

Part3では、鈴木さんがコミケに通うようになったきっかけから、コミケット87で開催した鈴木心写真館の感想までをご紹介しました。ゲームを通じてコミケ素養を養われていた鈴木さんが、かわいいコスプレイヤーというわかりやすい入り口にフックされてコミケに通うようになったのは、自然な流れだったのかもしれません。試行錯誤を繰り返しつつも、写真家・鈴木心の写真がコミケで成立するスタイルを構築してくくだりは、まさに脱帽です。コミケで写真によるコミュニケーションを確立しつつある鈴木さん。次回最終回はいよいよコミケットスペシャル6への意気込みをうかがいます。

Part4に続く
(*1)一般参賀 鈴木さんは一般参賀でも群集の撮影を行っている。


(*2)秋葉原の話 コミケットスペシャル6のカタログに掲載されている鈴木心写真館告知ページで、鈴木心プロフィールの「秋葉原に行くと〜」のくだりは、鈴木さんから以前うかがっていたお話を元に準備会担当が足したもの。